自然な表情が語る、革の品質

良い革とは

 革製品を選ぶ際に、「良い革」というワードを一度は見聞きしたことがある方は多いのではないでしょうか。

 ところが「良い革」とは具体的にどんな革なのかという問いは、なかなか難しい問題です。
なぜなら「良い革」という判断は、好み・思い入れといった個人的な選好に始まり、製革工程の環境負荷・希少種保護といった社会的規範、用途への適合性など、様々な定性的要素やコンテクストを内包し得るからです。

価格は定量的でわかりやすいですが、マーケティングコストなどの間接費用やブランドプレミアムなど、あらゆるコストが含まれているため、絶対的な基準にはなりません。

 しかし、ほぼ一義的に定まる要素もあります。それが原皮の品質です。

原皮の品質

 「革(Leather)」はもともと動物の皮膚である「皮(Hide/Skin)」を鞣すことによってつくられます。同じ「かわ」でも鞣す前を「皮」と表記し、鞣した後を「革」と表記します。紛らわしいため、しばしば革の原料になる皮のことを原皮(げんぴ・Raw Hide/Skin)と表記したり、「革」は「かく」と読まれたりします。

 原皮は食肉の副産物ですので、ブラジル、中国、インド、アメリカ、アルゼンチンなど食肉消費が多い国で多く生産され、保存状態で各国の製革業者(タンナー)に輸出されます。

原皮が生産される際、その品質は客観的に定められています。
その基準は端的に「見た目の綺麗さ」です。もちろん、栄養状態などに起因する厚みなども勘案されますが、目に見える欠陥の多さは品質の最も重要なメルクマールとなっています。

わかりやすい例として、UNIDOのガイドラインがあります。

UNIDO(国際連合工業開発機関/United Nations lndustrial Development Organization)は、開発途上国の経済発展と工業基盤の整備の支援を目的とした国際連合の専門機関で、日本にも事務所があります。

 原皮はもともと動物の皮膚なので、その表面には生育環境に由来する傷や虫刺され、打撲痕にはじまり、原皮になってからの保存状態に起因する腐敗や染み、ヤケ、地域によっては管理用の焼印などがしばしばみられます。

UNIDOは、1990年ごろまでアフリカにおいて大量に発生していた原皮のロスを改善する目的で、原皮の品質を客観的に評価でき、国際的に通用するガイドラインを制定しました。畜産や原皮の生産に従事する人たちが一見して理解できるよう、わかりやすく図示されています。

原皮の等級

具体的には、UNIDOのガイドラインでは原皮の等級を一級から四級までに分類しています。

まず、最も良い一級の品質基準は、以下のようになっています。

First grade

The first grade shall be done according to the following requirements:

- No visible defects in the central part of the skin;(中央部に目立つ欠陥がない)

- No sign of putrefaction;(腐敗の兆候がない)

- Free from dirt;(汚れがない)

- Coming to the periphery of the skin or the legs or tail, ONLY ONE of the following

defects is accepted:(周辺部や脚部、尾部に至るまで、以下のいずれかの欠陥は1つまで)

a. few defects caused by diseases(病気に起因するわずかな欠陥)

b. few defects from parasites(寄生虫によるわずかな欠陥)

c. one branding mark(一か所の焼印)

d. one wound open or cicatrized(一か所の開いた傷または瘢痕)

 

 これを図示したものが以下の図です。

Source: p13, United Nations Industrial Development Organization (UNIDO), Guidelines for grading of hides and skins by quality, Vienna, Austria, 1992

 一級はほぼまっさらともいうべき、非常に綺麗な状態の原皮です。

 続く二級の品質基準は一級よりもより多くの欠陥を許容するものになり、三級は二級よりもさらに多くの欠陥を許容するものになっています。

そして四級は商品としての最低基準に位置付けられ、次のように定められています。

Fourth grade

The fourth grade shall be done according to the following requirements:

- In addition to the defects mentioned for the third grade, defects are accepted in

low/medium. concentration on the skin if they do not cover more than 40% of the

total skin area!(三級で言及された欠陥に加えて、低~中程度の欠陥の合計面積が全体の面積の40%を超えていないこと)

 

 四級よりも欠陥の多い革は、商品として出荷することはできない(Reject)とされます。次の図は四級の図示ですが、一級のものとの違いは一目瞭然です。


Source: p16, United Nations Industrial Development Organization (UNIDO), Guidelines for grading of hides and skins by quality, Vienna, Austria, 1992


原皮が決める、仕上げの必然

 原皮の品質基準は非常にシンプルです。端的に目に見える傷や取れない汚れがどれだけ少ないかで決まります。
なぜなら、これらの要素が最終製品である「革」の仕上げに影響を与えるからです。

 コラム「革の定義」でもご紹介したように、「革」の範疇にとどまるためには、基本的に原皮の真皮構造はそのまま残る必要があります。

 まず、原皮のキズや痛みなどの欠陥が革にそのまま残ると、革の見栄えや色の入り具合、機械的強度などに影響します。
そうすると、革製品用に革を裁断するときに欠陥部分を避けなければならず、使える面積が限られ、革製品の歩留まりが悪化します。したがってそのような革は買い手の需要が限られ、品質が悪く価値が低い原皮という評価になります。

 しかし、このようなデメリットは通常、革の製造工程で改善されます。
銀面に残る小さな欠陥などは表面ごと薄く削り取ったり、塗膜で覆い隠したりします。
こうして仕上げられた革は、銀面をよく見ても、原皮由来の毛穴やシボ(凹凸)、トラ(血管等の痕)などは見られず、どの場所を見ても同じという非常に均一な見た目をしています。

 加工によって得られるメリットもあります。
まず、どの部位もほぼ画一的に広く使えることから、歩留まり向上によって最終製品のコストは減少します。
また、銀面に人工的な層を形成することで物性(耐久性や耐摩耗性)が向上するほか、色が均等に乗るので発色が安定し、防汚性・防水性なども付加できてメンテナンスもしやすくなります。
その他、最終製品のコンセプトやデザインに応じて様々な見た目(型押し)に加工するなど、ニーズに合わせて革に実用的な性質を付与することが可能です。

 いっぽうで、欠陥がほとんどない原皮は、綺麗な素性を活かすオプションを持ったオールマイティな原皮といえます。
素材そのものが綺麗なので、そのまま革に仕上げ、そのまま革製品に加工できるという特権です。
欠陥がほとんどない原皮の銀面を、あえて削ったり塗装したりして人工的に隠蔽するのはもったいないので、状態の良い原皮はそれを活かすべく、必然的にほぼスッピンのような形で革へと仕上げられます。

 このような革はいわゆる「フルグレインレザー」と呼ばれます。
フルグレインレザーが素上げやオイル仕上げ、ピュアアニリン仕上げといった方法で仕上げられていれば、その原皮の等級は高かったといえます。
その銀面をよく見ると、見た目は若干不均一ですが、原皮由来のシボや毛穴、欠陥の痕などがわかります。

たとえば、下の画像はフルグレイン・ピュアアニリン仕上げの革です。
よく見ると、ところどころ色が濃くなっている部分があります。
このような色のゆらぎは、革の風合いを最大限に活かすべく、部位ごとの繊維密度や配向性を覆い隠さずに透明度の高い染色を施した結果、発色が素材の組成に委ねられたからです。


見た目に不均一性はありますが、このような革は傷の少ない原皮、すなわち品質の高い原皮からしかつくることができません。
この点、革製品の商品タグなどで「皮革は天然素材であるがゆえに、不均一性は不良ではない」といった趣旨の文章を見かけることがありますが、これは若干の不均一性を許容してもらうための予防線ではなく、高品質な原皮から製造されている素材に対する自信の表れと解釈することも可能です。

    まとめ

     良い革の何たるかを原皮の品質という観点からみたとき、自然なシボや毛穴が見える革は原皮の質が高かったといえます。
    逆に、あまりに均一で人工的な革は、加工を行う理由は様々なので一概には言えませんが、そのように加工せざるを得なかった可能性があるということが言えるのではないかと考えます。

    どちらが良い革かという問題はケースバイケースです。
    加工によって見た目を整え、用途に応じた機能を付与することは、鞄や財布、その他の革製品が日用品であることを考えれば合理的です。
    しかし、おいしい料理に新鮮な素材を感じるように、本来の革の特性や風合い、エイジングを楽しむという点では、やはり天然に近い革に軍配が上がります。 

     市場には様々な種類の革があります。強度に加工してある革を使った高価な革製品は珍しくありません。製品の価格のみで革の良しあしを判断するのは早計です。
    お気に入りの財布やバッグを選ぶとき、ぜひ表面をじっくり眺めてください。自然な表情が見えるかどうかが、原皮の品質を知るヒントになります。

    革の表情に、そうなるべくしてそうなった理由があると知っているだけで、もの選びが少し楽しく、納得のいくものになるのではないでしょうか。